現代の貧困

「現代の貧困―ワーキングプア/ホームレス/生活保護 (ちくま新書 (659))」筑摩書房

アマゾン購入感想

届かぬ福祉は、誰のため?社会福祉の専門家による、日本社会における貧困問題の解説書。

ひとくちに「貧困」といっても線引きが難しいことが、本書の前半を通してよく分かる。
「貧困」を一時的な状態、すなわち「経験」として把握すると、貧困を「乗り合いバス」のように例えられる、とのこと。
乗り降りする人もいる一方、ずーっとこのバスに乗りっぱなしの人もいる。その原因、条件とは何か。
そして、後半は、ホームレスや、貧困に陥る可能性の高い人、多重債務の問題へと展開される。

著者によると、日本の福祉というのは、「高学歴かつ正規雇用者で資産も家族もある人」に「やさしい」が、
その型からはずれた人には「やさしくない」。
「不利な人」は不利な状態に縛られたまま、抜けることができないしくみにおかれているのだ。

だが、「定型から外れる=不利を被る」社会では、逆に個人の、そして国益の可能性を奪わないか。
貧困は、当事者だけの問題なのか。社会の土台の安定という観点から、全ての人に関わる問題だ、と著者もいう。
どのような立場のひとであれ、望まない貧困に陥らないようなしくみって、ありえないのか。グローバル化に耐える
企業生産の効率化のためには、使い捨て続ける貧困層が不可欠なのか。

本書が出版されてから1年経つが、あちらこちらで紹介、引用され続けている。
これは、グロテスクな現実から視線をそらしがちな、ぬるく幸せな「非・貧困層」の人々に、
鋭い警鐘を鳴らす役割を果たし続けているということだろう。

貧困の再発見へ向けて 年末の新聞の「今年の本」というコーナーで見つけて読んでみた。

 著者が指摘しているように「格差」に関しての議論は大いに出ている。一方 「日本には貧困問題がある」という議論は あるにしても 「格差」に比して遥かに少ない。「少ない=問題が無いというわけではない」というのが 著者の出発点である。

 僕らにとって日本とは かつては貧しい時代もあったが 高度経済成長を遂げて バブルが弾けることも出来るような 豊かな国になったという感触は確かにある。僕らが「貧困」でイメージする「画像」とは アフリカの飢餓であるとか 幾つかの国でのスラム街になってしまっているかもしれない。
 そんな僕らのお膝元で 実は相当深刻な貧困があるという著者の指摘にはちょっと驚いたが確かに読んでいると それは僕らが貧困を「再発見」しないだけではないかと思えてくる。

 著者が言う通り 日本では「貧困とは その人の自助努力が不足しているから起こる」という考え方が強い。今僕自身 書きながらも まだそう感じる面はある。
 確かにそういう部分は否定できない一方 それで片付けてよい問題ではなさそうだというのが 本書を読んで考え始めた事でもある。

 とにかく 今の段階で一番大事なのは「日本の貧困の再発見」をより徹底して検証する点にあると思う。
 著者が言う通り 「格差」に関しては「あっても良いではないか」という新自由主義的言説もありえる。一方「貧困」に関しては「あるべきではない」という政治の問題でもあるからだ。

格差と貧困の違い現代日本で格差問題が大きくクローズアップされているが、筆者は現代の日本で格差と貧困が区別されずに議論が進んでいることに疑問を感じており、真に解決すべき事象は貧困問題であると考えている。日本では高度成長時代のある時期から貧困は解決された問題として処理され、データとしても長い空白期間があったため現在専門家ですら日本で貧困は増えたかどうかに関しての正確なデータは見出せないとしている。貧困は実は統計的定義が曖昧であり、かつ大規模調査が非常に困難な対象であるが、OECDの基準からは日本の2000年の貧困率は15.3%で加盟20カ国の中でワースト5にあたり、決して対外的にも貧困は少ないと断定できる根拠はないとしている。
 筆者は貧困と病気、自殺、孤独死、火災死、多重債務問題、児童虐待との関係にも統計データを用いて科学的に言及しており、日本の福祉国家の仕組みは、低学歴で未婚もしくは離婚経験があって非正規雇用で転職も多く、資産も家族もない人には「やさしくない」と結論している。貧困の「再発見」は日本の福祉政策を決定していくことに重要であり、積極的な施策の必要性を説いている。
 私も本書が指摘するとおり、日本の貧困問題に関してあまり意識することはなかったが、格差よりも貧困対策が重要であることは理解できた。医療に関しても健康保険の払いが困難で、最低限の医療すら受けることの出来ない人が増えているという報道も見たことがある。日本の一見充実した社会保障制度の影で、貧困の増大は社会問題であることを認識すべき時期かもしれない。

貧困は社会の問題「ワーキングプア」という言葉が日本でも衝撃をもって受け止められるようになり、一生懸命働いているのにわずかな収入しか得られず苦しんでいる人々が実はたくさんいるということに脚光が当たるようになった。「格差」という言葉も今や社会問題として認知されつつある。

本書はさらに一歩踏み込んで「貧困」を世に問うている。特に、「貧困」は特定のいくつかの要素に深く関係し、シンルマザー、低学歴、離職歴、3人以上子供がいるなどとの状況と強い相関関係があることを読者に示して、そのような「不利な人々」が貧困に追い込まれている様子を訴える。そして、だからこそ社会を挙げて対策を考える必要があることを説いている。

また、日本の社会保障制度は保険主義が中心であるために本当の底辺層の救済に役立っていない点も指摘している。このような実態を調べた上での第7章の「どうしたらよいか」は説得力がある。特に、いろいろな議論を呼んでいる生活保護に関して、たとえば住宅補助部分だけを切り離して部分的に受けられるようにする提言などは興味深かった。ただ、最低賃金引き上げ含む雇用環境整備の提言はあまり無い。

文章や全体のまとまりという視点では、あまりほめられない。貧困の定義にずいぶんページを使っているが、例えば月収が1,000円増えれば貧困ではなくなるかというとそういうものではないことは誰にでもわかるし、程度の差はあれ「貧困」という言葉を違う意味に取る日本人はまずいないだろうから、そのようなところは専門家以外はある程度流し読みしてもよいだろう。データの分析力という点から見ても考察の説得力はもうひとつで、いきなり結論が情緒的な言葉で丸められている点もあり、いろんな反論が成り立ちそうだ。貧困が社会に与えるマイナスの影響についても分析が十分とはいえない。

ただ、今の世の中でデータや提言や書籍を必要としている分野であり、とにかくこのような形で世に出したという点を高く評価したい。

海外の支援をしたい方はまずこれを読んでから 格差社会が話題になるなかで、あたかも一時的な状態であるかのごとく論じられる格差論だけでくくれない、常にあった貧困についてわかりやすく論じていて引き込まれます。
 筆者が文中で例示する、貧困とは別世界にあるものと思いこんでいる人たちがあるいは喜んで買うであろうホワイトバンド、という趣旨のくだりには苦笑しました。
 グローバルな視点を持つことはもちろん必要であると思います。が、昔、NGOの第一線にいる人たちが、海外の支援に奔走する人たちが日本に帰ると何もしないことを嘆いていたことを思い出します。海外の問題に取り組むのは私たちの義務でもありますが、それは、自分たちの身の回りにある問題をきちっと把握して、そこを起点にしないとあやういようにいつも感じてきました。そこが見えない人たちに、海外の支援の必要性を説かれてもぴんとこないのです。
 海外の貧困支援を志す人たちには、ぜひ本書を一読のうえ取り組まれることをお勧めします。

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